文字サイズ

ブログ

その他

新米、介護者 奮闘記 【三年目に突入】

100歳へのカウントダウン

 早いもので、母もこの夏95歳を迎え、いよいよ100歳の大台が現実味を帯びてまいりました。さすがに買い物は遠方のショッピングセンターから最寄りのスーパー中心になってきて行動範囲は少しずつ狭まっていますが、それでも足腰はしっかりしていて日常生活は特に支障なく元気で過ごしています。

 ただ、心配事がないわけではありません。そのひとつが耳の聞こえが日増しに悪化していることです。その証がテレビのボリュームなのですが、2年前は音量の目盛が28~29(MAX100)だったのが(標準が20前後なのでそれでも大音量です)最近では38~39に上がり、日によっては40をオーバーしていることもあります。テレビの「字幕」機能を使ったり、補聴器を勧めたりしてはいるのですが、しばらくすると、まるでライブハウス?と勘違いするくらいの“大音量テレビ”に戻っています。

 これではご近所迷惑になってしまいますので、窓を開けて過ごす季節が来る前にテレビ用の手元スピーカーを設置しようと決心しました。

手元スピーカー選び

 「手元スピーカー」については、そんなに高額なものでもなく機能的にもシンプルなので「わざわざ希望や意見を聞くまでもないだろう。さっさと決めて購入しよう。」と安易に考えていたのですが、調べ始めると、そんなに簡単ではないということがわかってきました。

 スピーカーの基本性能はもちろんですが、むしろそれ以外(接続方式や形・デザイン、価格など)の部分で本当に様々な製品が発売されていて、まずバリエーションの多さに圧倒されました。同時に「デザインや価格だけで適当に選ぶのではなく、やはり使う人(母)の立場に立って、気持ちに寄り添って、丁寧なもの選びをしないといけない!」と思い直し、心構えや考え方を180°切り替えました。いくつになっても未熟さを反省です。

 「反省だけならサルでもできる」ので、母になったつもりで、前職で仕事上関係のあった無線ネットワークの知識をひっぱっり出して、もう一度「手元スピーカー」を調べなおしてゆくうちに、だんだんと選ぶ際のポイントが見えてきました。具体的には、優先順位1番がテレビとスピーカーの接続方式、次に電源の取り方です。

有線か?無線か?

 まず接続方式ですが、大きくは有線接続か無線接続かに分かれます。普通ですと、有線だとコードに足を取られて転倒する危険性があり、コードの長さでスピーカーの設置範囲が制限されるというデメリットもあるので「無線のほうが良いに決まっている!」と考えがちですが、有線はコードの接続が外れてしまうか断線でもしない限り、音声が途切れてしまうことはほとんどありませんし、特別な予備知識がなくても簡単に設置・接続や操作が出来るようになっています。この接続の安定性や操作感、トラブル対処に関しての安心感、これはご高齢者にとっての大きなメリットになり得ると感じます。

 一方無線ですが、ひと口に「無線」と言っても周波数帯や規格の違いで何種類もの通信方式が存在します。

 周波数帯では「2.4GHz」や「5GHz」、規格は「Wi-Fi」や「Buletooth」といったものが代表的ですが、名前が難しいばかりか、接続・設定や操作が難しくて、使いたくてもなかなか使いこなせないという方が多く、挙句の果てに使うのを諦めるという方までいらっしゃるのが現実だと思います。加えて、周波数帯と規格のどの組み合わせをとっても、一長一短が出てきてしまいます。

 例えば、「2.4GHz」と「Buletooth」の組み合わせでは、無線機器としては比較的、簡単に接続・設定ができるのですが、電子レンジから発生する電磁波が同じ2.4GHzであるためLDKタイプのお部屋では電子レンジを使うたびに音声が途切れてしまうという可能性もあります。無理やり母にこのタイプのスピーカーを使わせようとすると

 「このスピーカーはしょっちゅう音が途切れるなあ。不良品と違うか?悪いけど返品しといて。ちゃんと代金を返してもらいや。」という結末が目に浮かび、いつまで経ってもご近所に顔向けできません。

 さらに「Buletooth」は「2.4GHz」専用ですので、他との電波干渉が少ない「5GHz」では「Wi-Fi」を使用せざるを得なくなります。ただ「Wi-Fi」には「無線ルーター」といういわばネットワークの親機が別途必要になってハードルが一段上がりますので、日常的にインターネットを使っていて無線ルーターを設置しているようなご家庭だといいのですが、当然、母のマンションにはそんな設備はありませんし、使いこなせる知識があるとも…思えません(;´д`)

無線接続の救世主

 かといって有線にすると、やはりコードを引っ掛けてしまうリスクがあり、どうしても一人の時が心配になってきます。

 埃をかぶった自分の知識ではこれが限界で、どうしようか?と堂々巡り状態になって悩んでいたところ、ふと「そうだAIに聞いてみよう💡」と思いつき、早速パソコンに「無線接続タイプのテレビ用手元スピーカーで2.4GHz・5GHz以外の周波数帯を使った製品を教えて?」と入力したところ、ほんの数秒で「920MHz」という周波数帯と対応の製品、ご丁寧に製品掲載のHPまで紹介してくれました。

 この「920MHz」ですが「Wi-Fi」をベースに策定され日本でも2022年から使えるようになった比較的新しい無線規格とのことです。この周波数だったら他から電波干渉されるような心配もないですし、周波数が低い分、回り込みやすいのでテレビとスピーカーの間の障害物は問題なく回避できます。ただ、動画など大容量のデータ通信には不向きとのことですが、音声なら(実際製品化されている訳ですし)問題なさそうです。

 また、「Wi-Fi」であっても無線ルーターは不要で、「Buletooth」と同様にテレビとスピーカーをダイレクトに無線接続できるということです。

 「AI」と「920MHz」まさに二人の救世主が一度に現れて母を助けてくれたような気分で感謝・感激でした。

電源対応もGood

 あと電源の取り方ですが、スピーカーは充電式(DCアダプターをコンセントに差し込み、そこから電源ケーブルで接続)になっています。フル充電で8時間使えますので、普段は電源ケーブルを外してコードレスで使用するようにすればテレビとスピーカーの接続も含めて「完全コードレス」の環境が実現できて、コードを足にひっかけてしまう心配はほとんどなくなります。(電池切れの時は電源ケーブルを繋ぎ充電しながら使用することも可能です。)

 この時すでに「もうこれに決めた!」という気持ちになっていましたので、あとは、母に白か?黒か?好きな色を選んでもらうだけです。「白がええな」ということなので、そのままネット通販で購入ボタンをポチっと押して全部完了です。この間、所要わずか1時間程度、振り返ると大変あっけない「お買い物」でした。しかも翌々日には品物が届きます。

 カタログ等での情報収集、製品の特長・スペック・価格などの下調べ、店頭での実物確認・購入・支払いなど従来型のリアルな「お買い物」では少なくても半日かかっていたことが、DX(デジタルトランスフォーメーション)をフル活用すると家に居ながらにして1時間ほどで済んでしまいます。

 そう考えると、AIやインターネットといった先端テクノロジーであっても介護の世界に着実に浸透してきていると実感させられます。同時に、先端テクノロジーの動向に関して自分の経験や知識が錆びついてしまわないよう「たまにはアップデートしないといけない」とまたまた反省させられました。

いよいよスピーカーの設置

 納期通りにきっちり品物が届き、早速、スピーカーの設置を行いました。難しい初期設定は不要で無線とは思えないほど簡単なのですが、これだけは母には難しいかな?と感じたのはテレビに接続する小さな音声の無線発信器の取り付けのところでした。

 先ほど触れていませんでしたが、この発信器の電源はテレビ本体のUSB端子(最近のテレビにはほとんど全てUSB端子がついています)から、音声信号はヘッドホン端子からそれぞれ取り込んでくるようになっていました。ですのでUSB端子への電源ケーブル接続とヘッドホンの音量レベル調整というテレビ側の詳細設定は周りのサポートが必要になってくるだろうと思います。

 ただ、それも最初、設置の時だけの話で、あとは電源のON/OFFが一緒になったボリュームのつまみを回すだけなのです。

“オカン”の反応

 そして母へのお披露目です。テレビの電源を入れ(このときのテレビの音量は0です)、スピーカーのボリュームつまみを回します。最初にプチっと音がして電源が入り、続けて、つまみを右にゆっくり回してゆくと段々と音声が大きくなってゆきます。途中、母の反応を見ながら「よう聞こえるわ」と答えてくれたポイントでいったん停止し、しばらくテレビ視聴を続けていると母から意外な質問が飛んできました。

母「ところで、テレビの音が聞こえへんけど?」

私「???」

母「そやから、テレビの音を出してんか。」

私「えっ?…このスピーカーから出てる音がテレビの音や。」

母「???」

 と全くかみ合わない会話を根気よく30分ほど続けて、ようやく、テレビの音声が自分の手元にあるスピーカーから聞こえてくるのだと、何となくですが理解できてきたようです。無線は目には見えないので、テレビと離れたところにあるスピーカーからテレビの音が出てくるという現実が、なかなか受け入れられないのでしょう。それでも一時間ほど経つと「これやったら、テレビの音を大きくせんでもええな、お隣に迷惑をかけることないから助かるわ、おおきに。」と言ってくれたので、まずは一安心です。また後で聞いた話ですが「テレビより会話が聞き取りやすい」とも言っていたので、母の耳との相性もバッチリ!だったようです。

 最初こそ「電源のON/OFFの仕方がわかれへん。」とか「毎回、ボリュームのつまみを回して聞こえやすい音量を探すは面倒やわ。」などと言っていましたが、つまみを左右に回してON/OFFする練習を執拗に繰り返したり、音量の定位置にマジックで印をつけたりしているうちに、どうにか2~3日で操作を会得できたようです。今ではテレビ視聴時の母の必需品として大活躍してくれています。

 お陰で私も「母を相手にする時は“忍耐力”と“粘り強さ”につきる!」ことを改めて勉強させてもらいました。

 その後、手元スピーカーを設置してからおよそ一カ月が経過しキッチンやベッドなど至る所に持ち運んで使うようになりましたが、今のところ音飛びや途切れ、無線の切断など、無線につきもののトラブルは全くありません。試しにトイレにも持ち込んでみましたが、テレビの音はしっかり聞こえます。まるで有線接続をしているような安定感です。

 少し大げさですが「使い勝手はアナログ感覚、陰で支える技術は最先端テクノロジー」そんな理想形がこの手元スピーカーに詰まっている気がしました。「年老いた母が、なんと最先端テクノロジーを使いこなしている!」と考えると本当に“痛快”です。

もうひとつの心配事

 母が手元スピーカーを使いこなせるようになりホッと一息ついたころで、今度はもうひとつの心配事が頭をよぎりました。それは母の物忘れの状態です。手元スピーカーをお披露目した時の様なかみ合わない会話のやり取りが、耳の聞こえの悪さと歩調を合わせるように最近特に増えてきつつあるのです。「自分や孫たちのことは認識できているので、まだ、認知症ではないだろう。」とは思っているのですが、どうしたらよいか?というのもわかりません。

親子で気分転換

 必要以上に深刻にならないようにしようと肩の力を抜くと、急に桜のシーズンも終盤に差し掛かっていることに気が付き「最近、うちの“オカン”も外出してないし、花見にでも連れてゆこう。」と思い立ちました。幸い付近には沢山の桜の名所があるので、その中でもとっておきの穴場スポットに車を走らせました。

 ちょうど寒波が入っていたので、晴天の日曜日の午後にしては大した混雑もなく、絶好の花見日和になりました。花吹雪の一歩手前の状態で、花びらが舞い始める満開の桜を目の当たりにすると、それだけで気持ちが和み癒されます。車のドアを全開にして、親子共々、しばし時間を忘れて無心で桜に見入っていました。

 母も相当ストレスが溜まっていたのでしょう、よい気分転換になり、お互い少し解放されて満ち足りた気分で桜を後にすることができました。

今後は?

 母の「認知症」とは私にとって「ラスボス」のように戦う相手なのか?うまく付き合ってゆく存在なのか?はよくわかりませんが「理屈ではなくアナログ的な“気持ち”の部分がこれまで以上に大切になってくるのだろうな」ということは容易に想像がつきます。ですので“忍耐力”と“粘り強さ”に加えて“寛容な心”をもって、母に接してゆきたいと最後の最後まで反省しながら強く思っております。

 今後の展開は想像もつきませんが、機会がありましたら、ぜひ投稿をさせていただきたいと思います。では今日はこれにて失礼いたします。