新米、介護者 奮闘記 【孫+ひ孫連合 VS オカンの物忘れ】
忍び寄る不気味な影

私「……これ、前も買ったんちゃうん?」
冷蔵庫を開けた瞬間、私は思わず独り言をつぶやきました。
そこには、まるで「特売日の陳列棚」のように整然と並ぶ、3本の減塩醤油の小瓶。さらにその横には、同じような人参の袋が2つと、出番を待つ鮭の切り身が4切れ
とどめはボトルホルダーに未開封の牛乳パック2本と開封済みパック1本……。
95歳になった私のオカン。耳が遠くなるのと比例するように、この一年で「物忘れ」という不気味な影が、じわじわとその存在感を増してきました。
洗濯機を回したことを忘れ、一日3回も洗濯したり、食洗機の中が「洗い終わったもの」か「これから洗うもの」か分からなくなって、結局全部私が洗い直したり
時には「トイレの電気消し忘れ!」の犯人にされてしまうこともあります。
私「オカン、これさっき買ったばっかりやんか」
つい大声になってしまって、そう言うと
母「あら、そうやった? 忘れてしもたわ。えらいこっちゃな!ハハハ」
と笑い飛ばしますが、内心では「いつまで自宅暮らしを続けさせてあげられるやろか……」と、私の胸に小さな不安の影が落ちるのも事実でした。
立ち上がった「孫+ひ孫連合軍」
そんな時、私の職場の「相談員さん」からアドバイスをもらいました。
「認知症の進行を遅らせるには、指先を使うことと、何より『誰かとつながっている』という実感が大切ですよ」
そこで私は、一計を案じました。題して「~オカンSNSチャレンジ~」
私一人がオカンの物忘れに対処するのではなく、離れて暮らす「孫」や、まだ幼い「ひ孫」たちを巻き込んで、オカンの物忘れをSNSの力で追い込んでゆこうという作戦です。

総勢、孫4人、ひ孫4人。この「連合軍」が、オカンのスマートフォンに、ひっきりなしに写真やメッセージを送り込むことで、それが刺激になって、母の気持ちや記憶力に何か良い変化が生まれるかもしれない?と期待したのです。
ちょうど昨年秋にWifiを設置したばかりでしたので、引き出しの中に埋もれてしまいそうになっていた母の高齢者用スマホ(3年ほど前にガラケーから切り替えたものの電話の通話が関の山でほとんど機能していません)を引っ張り出してSNSのインストールを試みてみました。
しかし、Wifiの接続までは何とかなるものの、肝心のSNSのインストールに作業が移ると、何もかもが上手くゆかず頓挫しそうになってしまいました。
祝 SNS開通‼
そんな状況の中、救世主が現れました。正月に私の息子(母からすれば、3人目の孫)がいろいろな報告方々で母に会いに来てくれることになったのです。(家族は遠方で暮らしているため、入れ替わりながら、たまに母に会いに来てくれています)
息子が到着するや否や早速アプリのインストールを頼むと「息つく間もないの?」という表情をみせながらも、ほんの30分程度で作業が完了。姉や私も含めた「孫+ひ孫連合」全員のサムネール付きリストが母のスマホ画面にズラリと表示されました。見事!SNSの開通です。
インストールで悩んでいた自分はなんだったのか?と思いましたが、同時に言いようのない大きな感動を覚えました。
最新兵器の操作説明会
まず皮切りに、息子と私から写真やメッセージを送りましたが、しばらくすると母のスマホからひっきりなしに着信音が鳴り始めました。まるで「孫+ひ孫連合」が作戦を開始した合図のようで、みんないろいろと送信してくれているのがわかりました。

これに併せて息子も活動開始です。
息子「これ、ここを『ポン』って押すねんで。そしたら、ひ孫ちゃんの顔が見れるから」
母「指がカサカサで反応せえへんわ!」
母「変なマーク出てきた!これ何や?」とか文句を言いながらも、画面に映るひ孫の姿を見て
母「あら、大きなったなあ。確か今年から中学やったかなあ?」
母「ほら、見てみ。私に似て別嬪さんやろ。」と、目を細めています。
私「昨日あいさつに来た時も同じこと言うとったやん。大丈夫か?」と思いながらも「そやな。ホンマ良かったな。」ともっともらしく受け流してしまいました。
このままだと無限ループになってしまうかもしれない…と察したのか
息子「おばあちゃん。すごい出来るようになってきたやん。そしたら、他の写真も見てみよか?」とうまく話題を切り替えます。
母「どないしたら、ええん?」
息子「簡単やで。人差し指を画面につけたまま上か下かにずらしたらええねん。」
母「ホンマや!指に画面が引っ付いてくるわ。へえ~下側に違う写真があったんか。」とたどたどしいながらも、画面スクロールができるようになってきました。
息子「そうそう。その調子で毎日スマホを使ってたら、おばあちゃんなら、きっと出来るようになるよ。がんばってな。楽しみにしてるよ。」
母「そやな。毎日がんばって練習せんとあかんな。頑張るわ。」と私が言うよりずっと素直に返事をかえします。

こんな母と孫の何気ない、でも温かみのあるやり取りを見ていると『誰かとつながっているという実感』の大切さを忘れてしまって、溜まる一方のイライラやストレスをいつの間にか母にぶつけていた自分に深く反省させられました。
そう考えると、一番大事なことを思い出させてくれた「孫+ひ孫連合」のみんなと息子には本当に感謝の念しかありません。
ただ、たぶん翌日には大半の操作方法を忘れているでしょうから、そこから先、せっかく灯ったオカンのやる気!この灯が消えないようにするのは私の役目です。息子を見習って根気強く気長に丁寧に「最新兵器の操作説明会」を続けてゆこうと決心しました。
変化の兆し
そして正月も明け、のんびりした感じで「最新兵器の操作説明会」をつづけていると母がポツリと私に聞いてきました。
母「返事をしたいねんけど、どないしたらええんやろ?」
母「ほんでも字を打つのは難しそうやな?…」
「文字入力までは無理かもしれない」と勝手に思い込んでいましたが、本人がやる気になってくれたなら話は別です。そこで、すかさず
私「“おはよう”“ありがとう”“うれしいわ”みたいな簡単な挨拶くらいやったら、ちょっと練習したらできるかもしれんで、やってみたら?」
私「試しに“あいうえお”の入力をやってみよか?」
ということで、文字入力の練習を始めることになりました。
今日も自分から進んでスマホの画面を一生懸命に叩いています。SNSを通じて『誰かとつながっているという感覚』が、オカンの心に少しずつですが確実に活力を与えているようです。
SNSの力を借りて「家族の距離を縮める」のも、また立派な介護の知恵なのだと、改めて気づかされました。

長生きを楽しむ!
良いことばかり書きましたが、現実はそう甘くなく、物忘れが一気に改善した訳ではありません。
スマホの操作を一生懸命教えても、次の瞬間には「これ、どこ押すんやった?」と振り出しに戻ることもしばしばですし、孫たちが「おばあちゃん、醤油あるから買わんといてな!」とメッセージを送っても、スマホの通知を見逃して、結局4本目の醤油が冷蔵庫に仲間入りすることだってあります。
それでも、以前のように私一人で眉間にシワを寄せていた時に比べれば、家の中には笑いが増えましたし、オカンも「みんなに見られてるから、しっかりせなあかんなぁ」と、まんざらでもない様子です。
ただ「認知症」は、家族の愛情だけで太刀打ちできるほど単純な相手ではないことも、心のどこかで感じています。「一度ちゃんと専門家に診てもらったほうがええかもしれんな…」という思いもありますが、揺れ動いているというのが正直なところです。
しかし肝心なことは、オカンが「長生きを精いっぱい楽しむ!」ことができるかどうか?ですので、「物忘れ専門外来」の受診を真剣に考えてみようと思っています。
なかなか考えも気持ちもまとまりませんが、今日のところは一旦これで終わらせていただいて、また次の機会に状況報告などさせて頂ければと思います。
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